「平が岳」・登山紀行

『日本百名山・登山紀行』

　「平が岳」①（プロローグ）



　映画「ホワイトアウト」のシーンが鮮やかに蘇る。

奥遠和ダムを舞台としたスリリングなテロリストの物語だ。ダムへと続く唯一の

ルートとなるトンネルが延々と続く。嫌になるほど暗く長いトンネルだ。粗く削

られた外壁からは絶え間なく水が噴き出している。勿論、路面は常に乾くことは

ない。内部の明かりは暗く時速６０ｋｍで走行していても体感スピードはそれ以

上に感じる。長いトンネルはまるで地獄へ落ちるかのように闇の中へ向かって延

びている。いつまでたっても出口は見出せない、ただ、果てしなく続いていく。

　やがて、トンネル内部のオレンジ色の照明が左右に揺れて二重に見えてくると、

閉塞感からだろうか息苦しくなって気が狂いそうになる。それほどに、重苦しく

長いトンネルなのだ。奥只見シルバーラインという洗練されたネーミングからは

程遠く物悲しいルートだ。

　トンネルは、更に奥深くダムへと続く道と分かれトンネル内部の三叉路を右折

し、ようやく、トンネルを抜け、銀山平に到着した。ここから先はダム湖を巻く

ように急傾斜の道を数多くのカーブを抜けて鷹ノ巣へと向かっていく。

　銀山平から鷹ノ巣へは３５ｋｍにも及ぶ、激しいカーブの連続した険しい道だ。

ようやく、只見湖の湖面近くに道路が降りてきた。

　久しぶりに人家が現れ、清四郎小屋あたりは丁度、白い蕎麦の花が満開だ。

白い絨毯のような蕎麦畑が濃い緑とは対照的に深い谷間のわずかな土地に広がっ

ている。

　大阪を離れて６００ｋｍにも及ぶ、ロングドライブがようやく終わろうとして

いる。後は、明日の登頂に備えてゆっくりと休むだけだ。

　やがて、この、湖畔の谷が雪に閉ざされた光景を思い浮かべながら深い眠りへ

と落ちて行った・・・。

 

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