「木曽駒ヶ岳」・登山紀行

『日本百名山・登山紀行』

　「木曽駒ヶ岳」①（こまくさの湯）



　この季節の高速道路は、とても華やいでいる。

透き通るような青い空。そして、夏の日のような白い雲。

山肌を何色にもグラデーションした鮮やかな新緑。

色とりどりのやわらかな花達。

　名残の山桜がわずかに花びらを残している。車が通り過ぎるたびに散り引いた

花びらを舞い上げていく。

　路肩にはタンポポの黄色い花。

田植えを待つ水入れ前の田んぼには蓮華の花が風に揺られている。

　あぜ道にはショキングピンクや白の芝桜。

山藤や桐の花の淡い紫色は、この季節を代表する色だろうか。

　飯田あたりでは、背の低い梨の木に受粉をひかえた白い花が満開を向えている。

赤やピンクのチューリップも丁度盛りだ。

　花達も奇麗だが、何と言っても新緑だろうか。

葉の柔らかさが伝わるような淡いグリーンが山肌を覆っている。

　ただ、所々、ぽっかりと浮かんだ雲が山肌に黒い影を落としている。それ以外

は春の日に照らされてキラキラと輝いて揺れている。


　大阪出発から５時間弱、駒ヶ根に到着した。

高速を下りて、駒ヶ根高原を抜け、「こまくさの湯」に着いた。

露天風呂からは芽吹きはじめた数本の唐松の向こうに新緑の山肌が見えている。

所々に、山桜の白い花がアクセントを添えている。

　湯船に浮かんで白い雲の浮かぶ青空を見上げるだけで、すべての疲れと全ての

邪心が消え去って行く。

聞こえる音は、湯船に注ぎ込む御湯の音だけだ。静かで深い時間が流れていく。

　内湯の中央には直径２ｍ程のジャクジーバスがある。仰向けになって手足を伸

ばし勢いよく吹き出す泡に手も足も成されるままにする。

仰ぎ見る高い吹き抜けの天井にゆらゆらと湯気が昇って行く。

泡で浮かんだ体さえもが湯気と一緒に浮かび上がっていくような錯覚をおぼえる。

　明日登る予定の駒ヶ岳は、ガスで頂上部を恥ずかしそうに隠している。  

湯に深く浸かりながら、心が童心に返っていく。それと同時に快晴の頂上に立つ

夢を見たような気がした・・・。



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