「雲取山」・登山紀行

『日本百名山・登山紀行』

　「雲取山」①（夢）



　南アルプスの稜線近くに上弦の月が煌煌と輝いている、そんな夜空を

眺めながら眠りについたことを考えると、朝、目覚めた時の白一色の世

界には驚かされた。

　冷え込んでいることは十二分に承知してはいたけれども昨夜の上天気

から早朝の積雪はまったく想像できなかった。

　大阪から２００ｋｍは離れているだろうか、大好きな松川の温泉“清

流荘”に順調に到着し例年の正月山行もスケジュール通りに行くと安堵

した後に訪れた突然の雪の朝だった。

　とにかく中央自動車道の松川ＩＣまでたどり着けるかどうかだ。そし

て、チェーン規制が行われでもすれば、これから先、諏訪を越え、甲府

までの道のりは塞がれたも同然になるのだった。

　俊敏に出発準備を整えて、恐る恐る温泉をでる。積雪は３ｃｍ程だろ

うか。最初の下り坂をブレーキングを確かめながら慎重に降りていく。

新雪の柔らかい雪、そして降り出しから、まだそんなに時間が経ってい

ないためか、まだ、なんとかブレーキが効く。

　難関は県道との合流地点の下り坂だ。

真っ暗の中の雪道は不気味だ。県道との交差点に点滅する黄色い信号

が妙に鮮やかに明滅している。

　冷や冷やしながらようやくインターチェンジの上り口まで到着でき

た。電飾の警告掲示板には色々と書かれているが不思議とチェーン規制

の文字は見当たらない。

　狐に摘ままれたような気持ちのまま、半信半疑で高速に進入してい

く。

松川から先、駒ヶ根、伊北、諏訪に至るまでは標高１０００ｍ近くを走

ることになることを考えれば、これから先ますます雪が激しくなること

が予想できた。

　とにかく、チェーン規制のかかっていない今、標高の高い道を抜けて

しまいたい気持ちで一杯だった。

　高速道路には、まだ雪は積もっていない。町の県道よりも交通量があ

るためだろうか、路肩が薄っすらと白くなり始めているだけだ。フロン

トガラスには白い雪が踊りながらぶつかってくる。

　午前6時。

諏訪湖の周りの町の明かりが見えてきた。ここまでくれば雪の心配はし

なくてすむ。

　ただ、まだ奥多摩までは半分しかきていない。

少し仮眠をとって、後は上野原ＩＣを目指すだけだ。

雲取山は、まだ、遥か彼方だ。いったい幾つの山を越えて行かなければ

ないらないのだろうか・・・。





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